ひきこもり科学館

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【生涯学習】日本の大学は、そろそろ高齢者を相手に商売すべき|少子化時代の大学経営を考える

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序章 どうする?少子化時代の大学経営

今、日本では長く続く未婚化・晩婚化・少子化によって、モーレツな勢いで若年人口が減少しています。そして、その影響をモロに受けることになるのが大学業界です。今、日本の大学は経営上の岐路に立たされています。それはどういうことかというと、学生の確保が今まで以上に難しくなる、ということです。なぜかというと、大事なお客様である高校卒業生の数が減るからです。日本の場合、(一部、社会人入学などもありますが)高校卒業後すぐに入学する人が大半ですので、これは死活問題です。このままでは、よほど進学率を上げない限り、入学者数が足りなくなってしまいます。とはいえ、もはや2人に1人が大学に進む時代、これ以上進学率を上げよう、というのもあまり現実的ではありません。そうなると、もはや手詰まり…、一体どうしたらいいんだ!というのが今の大学業界の現状です。

はてさて、どうしたものか…。その悩みに対して、私はこのように答えます。
「だったら、別の年齢層にアプローチするしかないよね」と。

至極当たり前のことですが、これはすごく大事な発想かと思います。マーケティング上、すごく重要な視点かと思います。何せ、この発想があるかないかで、今後の方向性が変わってきますからね。要は、縮小市場に固執しても、いいことはありません。市場を拡げる、変える努力をしましょう、という話です。

…なんて考えていた訳ですが、すでに私の主張を代弁するようなレポートがありました。「朝妻レポート」です(便宜的に、そう呼んでおきます)。なかなか、いい発想が詰まっているので、ぜひ読んでみてください。
 

野村総合研究所 NRI学生小論文コンテスト(2013年度) 優秀賞

朝妻 美旺さん(新潟大学 教育学部 2年) 
「“学ぶ”という、シニアライフの提案~将来への「不安」を「期待」へ変える~」

https://www.nri.com/jp/event/contest/results2013/pdf/u02_2013.pdf

 

第2章 これからは「高齢者大学」をつくれ!

今、日本では、相変わらず少子化が進んでいます。しかし、それともう1つ、セットで進んでいるものがあります。そうです、高齢化です。日本では、高齢者は増えているのです。モーレツに増えているのです。そのため、これからは高齢者向けの産業がめちゃめちゃ儲かるのです(例えば、医療・介護とか)。それで、その考えは、大学において当てはめることができる訳でして…。つまり、若年者(高校卒業生)で入学者数を確保できなければ、高齢者で確保すればいいのです。―そんなことできるの?と思うかもしれません。しかし、少し工夫すれば、十分にできるはずです。なぜなら、高齢者には“勉強したい”というニーズがあるからです(それは、朝妻レポートでも言及されていますね)。リタイア後、暇を持て余して「何か、勉強したいなぁ~」と思い立つ人が少なくないからです。皆さんの出身大学でも、老後の楽しみで講義を受けているような人はいませんでしたか?―たま~に、いましたよね?こういう、“勉強したい”ニーズって、かなり大きいと思うのです。今でこそ、大学に通う高齢者は多くないですが、制度面など少し工夫をすれば、もっとたくさんの方が通いに来るはずです。「よし、大学に行ってみよう!」となるはずです。このように、高齢者の潜在的ニーズを取り込むことができれば、日本の大学経営も大きく変えることができるでしょう。そこで必要となるのが「高齢者大学」です。朝妻レポートでも構想されている「高齢者大学」です。つまり、高齢者向けの大学をつくれ!ということです。

 

第3章 高齢者大学のメリットとは?

では、高齢者大学をつくることには、どんなメリットがあるのでしょうか?―次の4つのメリットがあります。

 

1. 充実した生活、生きがいの提供

高齢者大学での活動は、高齢者の日々の生活に楽しみ潤いを与えます。例えば…、

  • 思い思いに好きな分野を学ぶこと→ 新しい趣味ができる。生きがいになる。
  • 意識の高い人と学び合うこと→ 新たな発見があり、よい刺激になる。
  • 新しい仲間や話し相手ができること→ 楽しい交流、ほどよいコミュニケーションになる。

というように、さまざまな効果が期待されます。このように、高齢者大学での活動は実に楽しく、充実したものになるのです。こうした活動は、残りの人生の生きがいにもなっていきます。

 

2. 健康増進、病気の予防

高齢者大学での学習は、健康増進病気の予防にもつながります。なぜなら、適度に頭や身体を動かすことは、健康にとっていいことだからです。講義で適度に頭を使うこと、適度に人と話すことは、脳を活性化させ、ボケ防止に寄与します。また、体育やスポーツの講義では、適度に身体を動かすことで、身体能力・機能を維持することができます。さらに、保健・健康科学の講義では、健康や病気の予防についての知識を得ることができます。このように、高齢者大学での学びは、単に勉強になるだけではなく、健康にとってもいいことなのです。

 

3. 大学経営の安定化、経営規模の拡大?

今後、日本では若年者(高校卒業生)の人口は小さくなりますが、高齢者の人口は大きくなります。したがって、高齢者のニーズを上手く取り込むことができれば、大学経営を安定化させることができるのです。いや、それどころか、大学経営の規模拡大も狙えるかもしれません。何せ、高齢者人口は多いですからね。18歳人口なんてたかが知れていますが、高齢者人口となればスゴいことになります。

  • 18歳人口 …120万人くらい、これからもっと減る
  • 高齢者人口(65歳以上人口) …3500万人くらい、これからもっと増える

これからは、新たな市場を切り拓くべきではないでしょうか?

 

4. 高度専門人材の活用

日本には、高度専門人材(大学院修了者など)がたくさんいます。たーくさんいます。ところが、彼らの就職先(研究職など)は必ずしも多くはありません。そのため、現状、専門性を活かした仕事に就けていない者が少なくないのです。「宝の持ち腐れ」状態になっている者が少なくないのです(はい、私もです)。しかーし!高齢者大学なら、彼らを引き受けることができるのです。彼らに仕事を与えることができるのです。さらにさらに!高齢者大学なら、人文系や芸術系など「カネにならない」分野にも、十分なニーズが期待されます(むしろ、老後の楽しみとしては、そういう分野の方がニーズがあるのではないでしょうか)。したがって、高齢者大学は高度専門人材の活用にこの上なくピッタリなのです。

 

このように、高齢者大学には多くのメリットがあるのです。多くの効果があるのです。これはもう、「やらない」手はありませんよね?そうは思いませんか?

 

第4章 高齢者大学の方法論

高齢者には、多かれ少なかれ、“勉強したい”というニーズがあります。しかし、今の大学が「高齢者の皆さん、ぜひ来てください!」といっても、すぐに来るかというと…、そんなことはないでしょう。そりゃ、若者のなか「浮く」のがイヤな人もいるでしょうし。あんまり、遠くまで通学できない人もいるでしょうし…。したがって、それなりに工夫をする必要はあります。という訳で、ここからは「高齢者大学」をどのようにつくればいいのか、より具体的に考えてみましょう。

 

1. 正式な「大学」である必要はない

高齢者大学は「大学」とはいえども、正式な大学である必要はありません。なぜなら、高齢者の“勉強したい”というニーズを満たすことができれば、それでもう十分だからです。それでもう構わないからです。別に、高齢者の多くは、しっかりとした学位がほしい訳ではありません(*)。そのため、卒業まで4年間かかる必要もなければ、卒業論文を書かせる必要もないのです。むしろ、そのレベルは多くの高齢者にとって、重荷になってしまいます。だから、もっとライトな制度にした方がいいかと思います。例えば、短大みたいに、2年間で卒業できるくらいの方が、ちょうどいいかもしれません。

*ほしい方には、一般の課程で対応した方がいいかと思います。ただし、健康面や体力面など、一定の配慮が必要になる場合もあるかもしれません(例えば、無理なく履修できるよう、「長期履修制度」を適用するなど)。

 

2. 大学とカルチャーセンターの間くらい

講義の内容も、高齢者のニーズに合わせて、柔軟につくっていきしょう。個人的なイメージとしては、大学とカルチャーセンターの間くらい、です。あまり、アカデミックな内容に固執する必要はありません。例えば、「俳句講座」のようなものを開いてもいいと思います。ただし、「この句は、文学的にどう解釈するか」など、一定のアカデミック要素は入れるべきでしょうが(カルチャーセンターと全く同じでは、意味がありませんからね)。もう少し、考えてみましょう。例えば…、

  • 「まち歩き」から郷土の歴史を学ぶ、日本史講座
  • 身近なニュースから考える、哲学講座
  • 話題の映画から考える、社会学講座
  • 体操で身体を動かしながら学ぶ、健康科学講座

など、いろいろあるかと思います。私の分野なら、何をしますかね?うーん…。いかに、学術的な要素を盛り込みつつ、親しみやすい内容にするか、が試されているような気がします。

 

3. 「サテライト教室」を作ろう

大学というのは、どこにでもある訳ではありません。特に、地方にはそうそうありません。そのため、地方に住む人が通うとなると、時間的にも経済的にも苦しいことになりがちです。ましてや、高齢者大学となると、健康面や体力面からも厳しくなります。したがって、高齢者大学では、もっと通学負担を減らさなければなりません。そこで必要となるのが「サテライト教室」です。高齢者に通学してもらうには、地方に小さい教室をたくさん作ればいいのです(つまり、分校の発想です)。朝妻レポートでは、その方法として公立小学校を利用することを提案しました。これは、素晴らしいアイデアだと思います。同様に、公立中学校や公民館などの利用も検討し得るでしょう。えー、とにかく…。学びの場は、なるべく身近なところにあった方がいいよね、ということです。

 

4. 公的な支援も

高齢者大学の設立には、国や自治体など公的な支援が必要です。いや、不可欠です。それはなぜかというと、1つは、ビジネスとして成立しにくい(高齢者から、高い授業料を取る訳にもいかない)ということ、もう1つは、社会的意義が極めて大きい(生涯学習の推進になる)ということです。したがって、(高齢者大学は)単に民間部門だけでできることではなく、行政やNPOなど公共部門との協働があって、はじめてできることだといえます。つまり、そう簡単なことではないよ、ということですが。少しずつ、やってみる価値はあると思います。

 

おわりに

以上、長々と書いてきました。いかがでしょうか?高齢者大学、魅力を感じていただけたでしょうか?もちろん、高齢者大学をつくるには、たくさんのエネルギーや工夫が必要ですが。それに見合う意義、価値はあると思います。では以上、今回はこのへんで…。