ひきこもり科学館

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商店街が生き残る都市の地理的特性 ~商店街活性化、再興のヒント

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近年、全国的に商店街の衰退、空洞化が大きな問題となっています。というのも、急激に変化する流通環境(大型量販店の進出、通信販売の普及など)のなかで、十分に消費者のニーズに対応できなくなり、衰退、空洞化が進んでいるのです。今では、「シャッター通り」となっているところも珍しくありません。

しかし、どの都市の商店街も同じように衰退しているかというと、そんなことはありません。なかには、比較的商店街が生き残っている都市もあります。例えば、東京や大阪などの大都市、地方都市では長崎や佐世保、高松、長浜などがそうです。では、商店街が生き残る都市には、どのような傾向・法則性があるのでしょうか?少しばかり、考えてみました。

 

① 一定の人口規模がある

現状、商店街が(比較的)生き残っている都市は、県庁所在地、中核市レベルの人口規模を持つ、それなりの大都市に多いです。逆に言えば、人口5~10万人レベルの小都市には少ないです。

それはなぜ?と言われると難しいですが、小都市では、商店街は「近くにイオンが1軒できたら、終わり」というパターンが多い気がします。ただでさえ少ないパイを、イオンに根こそぎ持っていかれる感じですね。まぁ、人口規模≒市場規模ですから、小都市では多様な業種・業態が成り立たない、多様な消費文化が育たない、というのもあるでしょうが。……あぁー。そう考えると、小都市ではイオン1軒ですでに「オーバーストア(店舗過剰)」状態だったりして…。で、その状態で、商店街がイオンに勝てるところがありますか、と。それが、ないんだなぁ~、というところが多い気がします。逆に、県庁所在地、中核市レベルの都市なら、大型店(百貨店やSCなど)との相乗効果で生き残っている例もありますね。

 

② 車社会ではない(非モータリゼーション)

そう言えば、テレビに出てくる東京や大阪の商店街って、割と元気ですよね。割と活気がありますよね。でも、それって何ででしょう?―その理由の1つとして、東京や大阪などの大都市は車社会ではない、ということがあります。まず、大都市では公共交通が豊富にあるため、「車なし」でも難なく生活することができます。また、道路が混みやすい、駐車場を確保しにくい、など車を持つとかえって不便なこともあります。こうした事情もあって、大都市では車を持たない人が少なくないのです。

こうした車を持たない人たちは、(車を持つ人たちよりも)まちを歩いて回る習慣があります。そりゃ、そうですよね。基本的な交通手段は「徒歩」ですから。日々の用事をこなすため、家の近所から駅までの道中、駅の周辺とあちこち歩き回ることになります。すると、どうなるでしょうか…。自然と、まちの商店街を通ることになります。そして、ふらっとお店にも立ち寄る訳です。すると、ふと、まちの商店街のよさ・魅力(例えば、店主の目利きとか、細やかなサービスとか)にも気付いたりして…。日々、まちの商店街で買い物をするようになる訳です。素晴らしい流れですね。ちなみに、こうした(車を持たない)人たちは、わざわざ遠くの大型SC・モールには行きません。時間とか、交通費とか、もったいないですからね。

そんな訳で、車社会であるかどうか、というのは結構重要なことだと思います。これが車社会になると、Door to Door でイオンに直行ですからね。

 

③ まち歩きができる、まち歩きが楽しい

そもそも、商店街というのは歩くものです。歩いて通るものです(決して、車で通るものではありません)。したがって、商店街にとっては、その地域にまち歩き文化(カルチャー)があるかどうか、が結構重要なのです。つまり、商店街が繁栄するには「まち歩きができる」「まち歩きが楽しい」地域でなければならないのです。そう考えると、地域にとって、以下のようなポイントが重要といえます。

・歩道(歩くスペース)があること
基本中の基本です。いつも車にジャマされていては、歩いてられませんからね。

・お店が豊富にあること
まち歩きは適度に新しい発見があってこそ、楽しくなるものです。そのためには、まず、お店が豊富になければなりません。特に、

  • 業種の数が多い
  • 個性的な個人経営店が多い
  • チェーン店が少ない

といいですね。まち歩きは、「あ、あのお店は何だろう?」「このお店、オシャレだな~」といった発見があってこそ、楽しくなりますからね。

・まちが明るくきれいなこと
まち歩きを楽しくするには、ただ“歩ける”だけでなく、“歩きたくなる”ことが求められます。そのためには、まちが適度に明るくきれいなこと、も大切な条件といえましょう。もちろん治安・防犯の面でも、その方が望ましいかと…。そもそも、安心して歩けないようでは、お話になりませんからね。

・適度に人気(ひとけ)があること(*)
やはり、人の集まるところに、人は集まりますからね(その逆もまた然り)。また、治安・防犯面でも大切といえます。

*これについては、鶏が先か、卵が先か、ですが。

まち歩き文化(カルチャー)は、こうした条件があって、はじめて育まれるのかもしれません。

 

④ コンパクトシティ(都市機能が拡散しない)

私は、かつて何年か長崎県に住んでいたのですが、そこでふと気付いたことがあります。そう言えば、長崎や佐世保の商店街って結構賑わっているなぁ~、と。でも、佐賀の商店街って全然賑わってないなぁ…、と。同じ、西九州の主要都市なのに。この違いって、一体どこから出てきているのでしょう…?

おそらく、その答えは各都市の都市構造にあります。先に結論からいいますと、長崎・佐世保はコンパクトシティであり、佐賀はコンパクトシティではない、ということです。

コンパクトシティ:都市の郊外への拡大を抑制し、中心部に商業、住宅、行政等、生活に必要な諸機能を集約することで、都市の活性化と生活の利便性向上を図る、新しい都市の形態のこと。


それで、長崎・佐世保は見事、その都市の形態に当てはまっているのです。つまり、コンパクトシティになっているのです。長崎・佐世保は、山がちな地形で平らな土地がほとんどありません。そのため、貴重な平坦地は争うように開発され、高密度な市街地が形成されました。その一方、開発が難しい山地は、その多くが自然のまま残されまたのです。すると、どうでしょう…。何と何と、コンパクトシティのできあがり!です。つまり、長崎・佐世保は地形的な制約から、意図せずともコンパクトシティになったのです。いわば、天然のコンパクトシティですね。

それに対して、佐賀は佐賀平野のど真ん中、平らな土地ばかりです。そのため、郊外開発が進み、低密度な市街地が形成されました。どちらかというと、コンパクトシティとは反対の姿ですね。

 

◯ なぜ、コンパクトシティがいいのか

では、なぜ商店街の存続にとって、コンパクトシティがいいかと言うと、(商店街の位置する)中心市街地の中心性、あるいは都市機能が低下しないからです。

まず、商店街というのは、人に歩いてもらわないことには、どうにもなりません。そのため、(商店街のある)中心市街地に用事があるということ、これがすごく大事なのです。ズバリ、ここにコンパクトシティの強みが活きてきます。コンパクトシティには、(中心市街地に)商業や工業、行政、医療、教育など、生活に必要な諸機能が一通り揃っています。そのため、人々は日々のあらゆることで、中心市街地に足を運ぶことになるのです。例えば、買い物はもちろん、仕事やお役所、病院、学校など…。さまざまなことをしに、やってくるのです。これは、商店街にとっては大きなプラスです。なぜなら、商店街を含む地域がまちの中心となり、集客力が上がるからです。いろんな人が集まってきて、消費のポテンシャルが高めていくからです。それは、他の用事で来た人の「ついで買い」も含めて、です。

ただ、それだけではありません。こうした、人の集まるところには、魅力的な都市社会・文化が形成されます。例えば、こだわりのカフェを開こうとか。アトリエを造って、絵を描こうとか。ちょっとした祭りをやろうとか…。何か面白い人が、何か面白いことをする、そういう社会・文化が育まれるのです。こうした都市社会・文化は、商店街の個性ローカル性を高めていきます。「ここだけ」の魅力を高めていきます。それが、商店街全体の活性化につながっていく、のは言うまでもありません。

 

◯ 郊外化のリスクとは…

逆に、まちが郊外化すると、(商店街の位置する)中心市街地の中心性、都市機能は低下していきます。すると、どうなるでしょう…。商業、工業、行政など、生活に必要な諸機能は郊外にあるので、人々が中心市街地に足を運ぶことはなくなっていきます。そりゃ、用事がないですからね。そうなると、もう、中心市街地に人が集まることはありません。ということは…。当然、そこにある商店街も大きな打撃を受ける訳です(実際、佐賀のまちは、見事にそうなっています)。

また、郊外化について話してきましたが、商店街にとって気になるのは、やはり商業機能の郊外化です。特に、郊外に商業機能が集積した場合(例えば、イオンモールができたとか)は、悲惨なことになります。よほど、商店街に魅力がない限りは、お客さんを根こそぎ奪われることになるでしょう(実際、佐賀はそうなりました)。その点では、長崎・佐世保はラッキーといえます。そもそも、(大型店が出店するような、広い)土地がありませんでしたからね。

 

⑤ 地域コミュニティ、「つながり」が残っている

商店街は、店主もお客さんも地元の人であることが多いです。逆に、よそからやって来る人は少ないです。つまり、商店街はおおかた、地元の人で成り立っているのです。そのためか、商店街にはイオンにはない、地元の人との「お付き合い」が多くあります。例えば、店先で世間話をしたり、商品を家まで届けたり、地域の行事に参加したり…。そういった、顔のみえる「お付き合い」が多くあります。まぁ、ちょっとしたことに過ぎませんが。ちょっとした世話焼きに過ぎませんが…。

とはいえ、それが地元の人との「つながり」になっているのです。そして、商店街はその「つながり」に大いに支えられています。例えば、地元の住民、学校、町内会…etc。そういった「つながり」に大いに支えられています。実際、お客さんは(お店に)足しげく通って、買い支えていますよね。そういうことです。よって、商店街は少なからず、地元の地域コミュニティによって支えられている、といえます。したがって、商店街の存続にとって、地域コミュニティの存在は重要なのです。商店街が下町に多いのも、そのあたりと無関係ではないと思います。

 

⑥ その他 ~広域集客型商店街について

一般に、商店街は「近隣集客型」です。多くは、地元(近隣地域)からの集客によって成り立っています。だからこそ、車社会でないことや、地元の人との「つながり」があること、などが重要なのです。

しかし、なかには他の商店街にはない特色・特長を備え、広域からの集客によって生き残りを図る商店街もあります。これらは「広域集客型」の商店街です。このタイプは、コンテンツそのものにチカラがあるので、多少車社会になっても、地域コミュニティが弱くなっても、十分に生きていけます。では、このような商店街には、どのような特色・特長があるのでしょうか?また、どのような事例があるのでしょうか?少し、みていきましょう。

 

◯ 観光的魅力がある

遠くから人が集まる場所といえば、まずは観光地ですね。商店街を観光地化する、というパターンがあります。例えば、滋賀県長浜市の「黒壁スクエア」などが、そうです。黒漆喰の情緒ある街並みを活かして、観光的魅力を高めています。黒壁スクエアは商店街の古い建物を、次々と美術館やギャラリー、ガラス工房、カフェなどに再生。古い建物でありながらも、「オシャレ」で「モダン」なテナントに生まれ変わらせました。また、「ガラスのまち」を打ち出し、まちに新たな文化を創り出しました。こうして、黒壁スクエアは新旧、和洋折衷の歴史・文化を感じる、個性的な商店街になったのです。そのおかげで、今では滋賀県随一の観光スポットになっています。

そのほか、

  • 「一番街商店街」(埼玉県川越市)
  • 「妻籠・馬籠」(長野県南木曽町、岐阜県中津川市)
  • 「北野異人館街」(兵庫県神戸市)

なども、このパターンに当てはまるでしょう。

 

◯ 特定の分野で「聖地」になる

続いては、業種を特化・専門化して、特定の分野で「聖地」になる、というパターンもあります。例えば、よく知られている例を1つ挙げると、東京の「秋葉原」があります。もともと秋葉原は、電器店の集まる「電気街」として発展しましたが、今ではアニメショップやホビーショップの立ち並ぶ、「オタクの街」「サブカルの街」として進化、発展しています。実際、その分野の「聖地」として、全国・全世界から多くの人々が集まっていますね。「ここに行きたい」「ここに行けば、間違いない」といって…。それこそが「聖地」の大きな強みなのです。

そのほか、

  • 「合羽橋」(調理器具の聖地)
  • 「神保町」(古書の聖地)
  • 「月島西仲通り」(もんじゃの聖地)
  • 「竹下通り」(若者・カワイイ文化の聖地)
  • 横浜や神戸、長崎の中華街(中華の聖地)

なども、このパターンに当てはまるでしょう。

 

このように、(少ないですが)全国から人を集められるようなコンテンツ、魅力を備えて、たくましく生き抜いていく商店街もあります。このタイプは、コンテンツそのものに強大なチカラがあるので、多少車社会になろうが、コミュニティが弱くなろうが、関係ありません。十分に生きていけます。

 

おわりに

以上、長々と書いてきました。どうも、商店街が生き残る都市には、一定の地理的特性がありそうです。ここから、少しでも商店街再興のヒントを掴めればいいのですが。掴めますかね?ではでは、今回はこのへんで。