近年、東京一極集中が「問題だ~」「大変だ~」としきりに騒がれています。東京一極集中とは、ヒトやモノ、カネや情報など、社会におけるあらゆる資源、資本が東京に集中する現象のことです。近年、この現象が特に顕著に進行しています。しかし、このことの「何が問題なのか」「何が大変なのか」と問われると、う~ん…、え~、あぁ~何だ、意外と答えられない方も多いのではないでしょうか?そこで、今回は東京一極集中の問題点について、改めて考えてみることにしました。東京一極集中の問題は、東京の過密による問題と、地方の過疎による問題の大きく2つに分けることができます。
(東京の過密)
まずは、東京の過密による問題から考えてみましょう。
◯ リスクへの脆弱性(自然災害、テロ、エネルギー不足等)
東京一極集中の状況下では、東京に自然災害やテロなど、何か不測の事態が生じたときに被害が大きくなります。つまり、あらゆるリスクに対して脆弱な状態になるのです。当たり前ですね。東京にあらゆる資源・資本が集中しているのですから。「首都直下型地震」がしきりに叫ばれるのも、このためなのです。実際、何か不測の事態(例えば、自然災害やテロ、エネルギー不足など)で、首都圏に長時間の停電でも起こったら、どうなるでしょうか…?当然、首都機能は麻痺するでしょうし、経済活動にも大きな打撃が与えられるでしょう。それだけ、東京に何かあると「痛い」のです(*)。だからこそ、長年「副首都構想」や企業の地方移転といった話があるのです。これらは、東京に何かあったときの「リスク分散」を目的としています。
*以前、某大臣が東日本大震災について「まだ東北で、あっちの方だったからよかった」と発言し辞任しましたが、発言内容そのものは至極ごもっとも、なのです(問題なのは、あの立場の方がおっしゃった、ということであって…)。
◯ 人口減少の加速(出生率低下)
東京というのは、つくづく結婚や子育てに不向きなまちです。その証拠に、東京の未婚率の高さ、出生率の低さは全国トップレベル。東京というまちは人口を再生産しません。今、その東京に多くの人々が流れ込んでいます。すると、どうなるでしょうか…?ズバリ、人口減少が加速します。何せ、東京は人口を再生産しないのですから。ここで、なぜ東京が人口を再生産しないのか、について解説しましょう。まず、東京は家賃など生活コストが高いです。その分、よく働かないと生活が成り立ちません。だから、よく働くことになります。しかし、せっかく働いて得たお金も、すぐに東京の高い生活コストに消えていきます。さらに、よく働いているので、プライベートにかける時間やエネルギーもありません。これでは、自分が生きていくので精一杯です(かといって、仕事を減らす訳にもいきません)。この状態で、結婚や育児を考える余裕なんて、あるのでしょうか…?いや、ないでしょう。ないはずです。何しろ、自分のことで精一杯ですから。結婚したいなぁ~、子育てしたいなぁ~と思っても、でもお金が(ないからできないや)、でも時間が(ないからできないや)となってしまいます。つまり、今の東京で子どもを産み育てるなんて、至難の業なのです。これでもう分かりましたね。こんなところに人が集まれば、人口が減るのも当たり前、ということです。
◯ 生活コストの増大(地価、物価高騰)→居住環境、生活水準の悪化
東京一極集中が進行すると、ただでさえ高い東京の地価や物価が、もっと高くなります。それに伴って、生活コストも増大します。つまり、生活するのに、バカみたいにお金がかかるようになるのです。すると、どうなるでしょう…?結論から言うと、お金持ち以外はまともな生活ができなくなります。中間層以下は、まともな家に住めなくなりますし、まともなものが食べられなくなります。なぜなら、増大する生活コストに耐えきれないからです。例えば、もし、今住んでいる家の家賃が1万円上がったら、どうしますか?おそらく、引越しを検討するのではないでしょうか。こうして、私たちは今いる家から追い出される訳です。さらに、もう1つ。もし、普段食べている牛丼の値段が100円上がったら、どうしますか?おそらく、セットのサラダ、みそ汁あたりを外すのではないでしょうか。こうして、私たちは何だか寂しい食事をとる訳です。このように、東京一極集中が進んで生活コストが増えると、私たちの居住環境、生活水準は悪化することになります。そのうち、東京では生活ができなくなり、追い出されることになります。最終的には、東京は一部のお金持ちしか、住めないまちになるでしょう。
(地方の過疎)
続いては、地方の過疎による問題を考えてみましょう。
◯ 都市競争力の衰退(経済、文化、政治など)
東京一極集中というのは、都市(間)の力関係の問題です。都市には、ヒトやモノ、カネや情報など、社会における資源・資本を吸い寄せる力があります。この力によって集められた資源・資本が、経済や文化、政治を発達させるのです。東京一極集中は、その力関係のバランスが大きく崩れている、という問題です。今の日本では、東京の資源・資本を吸い寄せる力が大きすぎて、相対的に(東京以外の)地方の影響力が弱まっています。そのため、地方の都市競争力が低下し、地方の経済や文化、政治が衰退していっているのです(生まれなくなっているのです)。その結果、地方の魅力がなくなっているのです。そうなると、ますます東京一極集中が加速していきます…。まさに負のスパイラルです。
◯ 雇用環境の悪化、失業の増加
仕事というのは、資源・資本のあるところに集まります。東京一極集中の状況下においては、仕事も東京に集まるのです。その一方、地方には仕事が集まらなくなります。集まったとしても、仕事の種類が大きく偏ってしまいます(農業とか、公務とか)。すると、地方の雇用環境は悪化し、失業者が増えていきます。ハロワに行っても何もない、地方では食っていけない、という状況になっていきます。その結果、地方では転出数が増加し、地域経済が衰退していくのです。現に、大卒者の就職状況なんか、そうですよね。地方大でも、東京で就職する人がたくさんいます。ところが、東京は東京でツラいかもしれません…。東京の場合、大量の人口流入によって求人倍率は低下。労働市場は競争が激化し、「いい仕事」ほど取り合いになりそうです。まぁ、いつの時代も、本当に「いい仕事」は取り合いですがね。
◯ 地域社会の衰退、限界集落化
過疎化というのは、地域社会の構成員が減るということです。そのため、過疎化は地域社会を衰退させる恐れがあります。現に、地方では商店街が廃れたり、学校が廃校になったり、耕作放棄地が増えたりしていますね。これらは、過疎化が大きな原因の1つになっています。単純にいえば、人がいないから、商店街も学校も田畑も維持できない訳です。こうして、地方では生活の維持が困難になっていきます。そして、ますます人が離れていきます。現に、中山間地の集落なんか、「限界集落」になっていますね。生活の維持が困難どころか、限界にまで来ています。もはや廃村待ったなし、です。これから、地方は消滅していくかもしれません。
おわりに
このように、東京一極集中の状況下においては、東京の過密による問題と、地方の過疎による問題が同時に起こっています。もちろん、人口移動は自然な現象であって、それ自体にいいとか、悪いとか、はありません。とはいえ、あまりに極端な流れになると、それはそれで問題も出てくるということです。よって、東京一極集中は、極端な人口移動現象による弊害として解釈することができます。それでは、今回はこのへんで。
(こちらもどうぞ)
・東京一極集中の対策は?多少は荒療治も必要?
(参考文献)