世間には、就活が上手くいかないからといって、大学院に逃げ込む人がいます。“緊急避難先”として、とりあえず身を寄せておきたい、という人がいます。決して「研究がしたい」とか「大学教授になりたい」とかではなく…です。しかし、それって問題ないのでしょうか?まず、大学院の本来の目的とはかけ離れていますし。大学院に進んだところで、就職できるとは限りませんし…。少なくとも、動機として聞こえのいいものではないですよね。なかには、批判的に捉える先生方もいらっしゃるかと思います。
しかし、私はそうした理由での進学も「あながち、悪くはないかな」と思っています。「まぁ、それでもいいんじゃないかな」と思っています。なぜなら、大学院での過ごし方によっては十分得るものがある、と考えているからです(かくいう私も、そういうクチですし…)。
◯ 就活が失敗したから大学院、が悪くはない理由
私が、就活が失敗したから大学院、という選択肢も悪くはないと考えるのは、次のような理由からです。
① 大学院進学で賢くなる、頭がよくなる
まず、大学院に入ると賢くなります。確実に、頭がよくなります。具体的にいえば、2年間、精一杯研究に取り組むことによって、知識や思考力、表現力を身に付けることができます。さらに、(分野にもよりますが)外国の論文も読むでしょうから、語学力を上げることもできます。このような点で、大学院への進学は、いくらか自身の能力向上に寄与するといえます。研究生活では、ときに「つらい」「苦しい」場面もありますが、その分、確実にチカラがついていきます。大抵の方は、己の実力のなさに苦悩するかと思いますが、それでいいのです。「あ~オレ、実力ねぇなぁ~」と自覚している時点で、ちょっとは賢くなっています。もし、ゼミで質問・コメントが言えたら、かなり賢くなっています。別に、上手くいかなくても構いません。この際、精一杯もがいてみてください。その経験は、あなたの一生ものの財産になります。それは、普通の会社勤めでは、なかなか得られないものではないでしょうか。
② 大学院進学で学歴が上がる(院卒になる)
当たり前ですが、大学院を出ると学歴が1段階上がります。学歴が「大卒」から「院卒」になるのです。そのためコンサルやシンクタンクなど、院卒を積極的に採用する企業では、就活を有利に進めることができます。また、企業によっては初任給が若干上がります(あくまで若干、雀の涙ですが)。さらに、元いた大学と異なる大学に入れば、「大学名」を塗り替えることもできます。いわゆる「学歴ロンダリング」ですね。
ここで旧帝大や早慶など、銘柄大学に飛び移ることができれば、大企業・有名企業に採用される可能性が高くなります。そういう点では、将来の就活において、大学院への進学は一定のメリットがあります(もちろん、研究分野や大学名にもよりますが)。今の時代、大卒なんて珍しくはありません。しかし、院卒となれば話は別です。今でも院卒は十分「エリート」です。ましてや、銘柄大学とあれば尚更です。
③ 大学院進学で、就活に再チャレンジできる
通常「新卒」の切符は1回限りです。この1回を逃すと、後はないというものです(だから、「就職留年」なんてする方がいる訳ですね)。しかし、大学院に入れば、その切符をもう1度手にすることができるのです!つまり、「新卒」での就活に再チャレンジできる、ということです。これは、特に「就活失敗組」にとってはありがたいことです。なぜなら、すでに就活の経験があるという点でアドバンテージがあるからです。例えば、ESの書き方や面接での受け答えの仕方など、ある程度勝手が分かっています。また、実際の合否などから「◯◯業界は受かりやすい」など、自分の適性を把握しやすくなっています。このような点から、「就活失敗組」は他の学生よりも有利に就活を行うことができるといえます。つまり、セカンドチャンスは大チャンスなのです!
④ 大学院進学は、自分を見つめ直すいい機会になる
大学院への進学には、モラトリアムの延長という側面があります。ときに、これは批判的に捉えられることも多いのですが、私は積極的に捉えるべきだと考えています。大学院(修士課程)での2年間は、あらためて自分を見つめ直すいい機会になります。せっかくですから、この2年間でいろんなことに取り組んでみてください。それは、研究も研究以外のことでも…、そうです。せっかくですから、学部生時代に「やり損ねたこと」をやってみるのもいいかと思います。例えば、海外旅行に行けてなかったな、今度は行こう、とか。インターンシップをやってなかったな、今度はやろう、とか。いろいろあるかと思います。そのなかで、自分が「何をやりたいのか」「何をやりたくないのか」を考え、これからどのように生きていくのか、を考えていく。そういう感じで、やっていったらいいかと思います。就活が上手くいかなかったからこそ、その2年間を存分に活かして、自分の将来、生き方について考えてみてください。
⑤ 大学院進学で、研究職に就けるかもしれない
大学院は、いわずもがな研究者の養成機関です。今でも、多くの方は「大学教授になりたい!」「研究職に就きたい!」などと考えて大学院の門を叩きます。当然のこと、大学院で一定の成果を上げた方には、研究職にありつくチャンスが生まれます(あくまで、チャンスに過ぎませんが)。まずは、修士課程の2年間で精一杯やってみてください。それで「見込みアリ」ならば、博士課程への進学を視野に入れてもいいかと思います。もちろん、アカデミックな世界も、それはそれでキビしいところがありますがね。まぁ…、よく考えて決めてください。
◯ 緊急避難先としての大学院進学、その2つの条件
先述の通り、私は就活が失敗したから大学院、という選択肢も決して悪くはないと考えています。しかし、いくら“緊急避難先”としての進学であっても、最低限、次の2つの条件はクリアしてほしいとも考えています。この2条件をクリアしない限りは、私は進学をお奨めしません。なぜかというと、この2つが危ういと、就職はおろか、ちゃんと卒業することすら危うくなるからです。
① 大学での勉強が「好き」なこと
いわずもがな、大学院は学問をするところです。大学院に入ると、嫌でもたくさん勉強(&研究)をすることになります。そのため、大学での勉強が「好き」といえるくらいでないと、とてもモチベーションが続きません。間違えても、大学での勉強が嫌いだった、というような方は来ないでください(大変なことになります。本人にとっても、周囲の人にとっても不幸にしかなりません…)。大学院でまともにやっていくには「好き」が最低条件です。困難な研究も、「好き」だからこそ乗り越えられるのです。やはり…、「好き」というのは、根源的で強いエネルギーを持っていますからね。皆が思っている以上に「好き」のチカラは重要なのです。
② 最低限、経済的に余裕があること
残念なことに、大学院はタダでは入れません。大学と同じように学費がかかります。そのため、最低2年分の学費のあては確保しておく必要があるでしょう。もちろん、アルバイトなどで調達することもできますが、それで研究に支障をきたすようでは本末転倒です。研究だって、多少のゆとりはないと手に付かないものです。「お金のゆとりは心のゆとり」です。親のスネにかじりついてでも、どうにかして調達してください。調達の見込みをつけてください。
では以上、皆さんもよく考えて進学してください。それでは、今回はこのへんで…。